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とりあえず、このシリーズの最後を締めくくるもの、らしいぜ?
何か、急ピッチで仕上げたからぐっちゃぐちゃだとか、知らねぇよって話しだよな。
しかも、前、中、後と来てエピローグとか
背後の計画性の無さが露呈されてるな…。
とりあえず、読んでくれるって人はいつもどおりMoreからどうぞって事。
パァンッ!
大きな背に背負われて誓った日から3年後。
相も変わらず、今日も町外れには乾いた木を弾く音が響く。
「ヒュッ!」
少年はもっと背が伸び、顔つきもどこか…変わった。
低い体勢から、木刀を斜めに振り上げる。
男はそれを横にした木刀で受け止め、口元に笑みを引いた…。
「おっと、まだまだ惜し――」
「シッ!」
短い弾いたような呼吸音が響く少年はそのまま反対方向に回転して木刀を引きながら、今度は斜め上から肩を打ちおろした。
「なに…!?つっ…」
少年が、男の下で修行を始めて8年…。
少年の放った打突が…初めて、男の体を打った。
カランッ…と音が一つ、男が肩を打たれた衝撃で木刀を取り落とす。
「…当たった」
「は、はは。参ったね…とうとう体に当てるまでになったか」
少年は紫電色の瞳をぱちくりさせ、打ち据えた体勢のまま固まってしまった。
男は、一度。少年の頭を撫でてやると…軽く肩を押さえ
「お前の勝ちだよ、アイク」
そう告げた、少年のこれまでの積み重ねを…静かに賞賛して。
「やっと師匠に打ち込めるくらい強くなれたんだな、オレ」
いつもの通り、食卓を挟んで向かい合いながらの食事風景。
だが、一つだけ違うのは…少年の表情がいつもよりもずっとずっと誇らしい物だ、という事。
「…そうだね。早い物だ、お前がこれまでずっとずっと頑張って来た事がもう実をつけ始めたのだね」
男は、嬉しそうに…しかし、どこか寂しそうに笑って頷く。
「…アイク。お前も、とうとう巣立ちの日が来たのかもしれないね」
「…巣立ち…?」
誇らしげだった少年の表情は、不思議そうな物へと変わった。
「そうだ。お前が此処に来て…もう8年。私は、持てる物全てをお前に教え込んできたつもりだ」
「ああ、師匠には本当に、色々教えてもらったよ。オレ、これからも此処でもっとがんばるから!」
す、と腕を組む男の神妙な顔を見て少年は頷き、これからももっと修行を積む…と込めた言葉を口にする。
しかし、男はその言葉に首を横に振って見せた。
「ああ、アイク。だが…そろそろ、お前は外の世界に触れるべきだ…。アイク、旅に出なさい」
「え…?ここで、修行してちゃ、いけないの?」
自分は追い出されるのだろうか?少年は、誇らしげだった瞳に少し不安の色を帯びさせる。
「いいや、そうじゃない。アイク、もっと強くなりたいか?」
「うん!」
「それならば、この小さな島国で留まっていてはいけない。アイク、お前は本当に見違える程に強くなった…だが、今お前が振るっている剣は借り物に過ぎない」
男は腕を組んだまま、静かに続ける。少年も、不安そうだった表情を振り払って黙って言葉を聞いた。
「お前はまだ、私の教えた剣を真似して振るっているだけだ。それではお前の素質を潰してしまう…これから、旅に出て自分の眼で物を見て、自分の耳で聞き、そして自分の頭で考え。お前だけの剣を見つけるんだ」
「オレだけの剣…?師匠の剣を捨てろ、って事?」
男の言葉に少年は、訝しげに顔を顰めて首を傾げた。
「いいや、そうじゃない。私の教えた事を基礎に…自分だけの剣に昇華させなさい。多くを見て来なさい、お前の見た物はすべてお前の糧になる」
「…オレだけの剣。オレの、糧?」
「そうだ。そして、剣だけでなく…自分の生きる道や生き方、色んなことを見て学んで来なさい」
静かに微笑んだ男は、片手を伸ばして少年の頭をまた撫でてやった。
擽ったそうにした少年は、一度だけ目を細めて。静かに、厳かに正座したままゆっくりと頭を下げた。
「…はい!オレ、沢山の事を学んで来ます。明日、早速出立します」
「ああ、それでいい…多くを学び、もっと強く、もっと大きくなりなさい…アイクは、それが出来る子だから」
突然の男の申し出。少年にはもう不安は無かった、寧ろ…これから自分を待っているだろう見た事も聞いた事も無い知らない事との出会いに、期待は膨らむばかり。
少年は、旅支度を済ませ…明日のために早め床についた。
今日だけは、と…男の眠る布団にもぐりこんで。
「…寂しくなるねぇ」
「……うん」
「けど、明日は…泣かずに別れよう。今生の別れと言うわけじゃあないんだ」
「……泣かずに、うん」
「私は笑顔でお前を見送る、だからお前も…笑顔でいってきます、を言っておくれ」
「…わかった」
少年は、一度だけ小さく呟くと目を静かに閉じて眠りについた。
翌朝、天気は快晴。風もそれほどに強くない、絶好の出立日和になった。
船着場についた船を前に、少年は男と並んで海を眺めていた。
「…大きいなぁ、海って。この海は何処まで続いてるんだろ」
「それを、これから自分の眼で見てくるんだよ」
二人で海を眺めていると、一羽の鳥が二人の間を通り抜けて…風に乗り高く高くへと飛んでいった。
「うわっ…!凄い…あんな綺麗な飛び方する鳥、初めて見た」
「ははは、年中あんな人気の無い所に居れば当然か…あれはね、燕と言う鳥だよ」
「燕…?」
海から男へと視線を移した少年は、首を傾げる。
「そう、渡り鳥だ。季節によって、燕は世界中を巡るんだ…華麗に空を素早く、高く飛ぶ鳥それが燕だ」
「へえ…世界中をか。それじゃあ、オレ…あの燕みたいになるよ」
空を見上げ、青く…何処までも高い空を見上げて少年は呟いた。
「燕みたいに…?」
「うん、世界中を旅するんだ。それで、色んなところを見て回って…大空を自由に飛び回るんだ!」
少年は拳を突き上げ、これから始まる旅に思いを馳せ…自然と表情をほころばせた。
「…そうか、それはいい。アイクにはピッタリかもしれないねぇ…。さ、もう船が出る。気をつけていっといで」
男も、釣られるように笑うと汽笛を鳴らした船を見て。少年の背をそっと押してやる。
「うん、行って来ます師匠!」
少年は元気良く頷くと、桟橋を渡り船へと乗り込む。甲板まであがり、船から大きく身を乗り出した。
男も少年も、笑っていた。
これは、未来への希望に満ち溢れた別離…二人の間に、しんみりした空気は要らない。
もう一度汽笛を鳴らすと、船はゆっくりと船着場から離れていく。
「………」
「………」
二人は笑ったまま、船着場と船の上と…徐々に離れていくお互いを見ながら、何も言わない。
少年は、一度…少しだけ俯いて。思いっきり手を振った。
「し、…師匠ーーーーーーーーー!!!!!!!」
突然の大声に、周りの人たちは勿論。男も驚いた顔で船の上の少年を見上げる…よく見ると、少年は泣いていた。
ぽろぽろと、大粒の涙を零して。それでも必死に笑顔を作ろうと笑いながら、思いっきり何度も何度も手を振る。
「オレ!絶対忘れないから!師匠が教えてくれたこと!全部全部!忘れないから!もっと強くなって帰って来るから…!!」
「……アイク。ああ…!いっといで…!」
男も、大きく手を振り…声を上げた。一筋、涙を流しながら…」
「師匠…師匠…!!今まで、ありがとうございましたーーーーー!!!!」
笑顔で、と言ったのに。
泣かずに、と言ったのに。
二人ともわかっていたのに、涙を抑える事が出来なかった。
最後に、少年は。大きく頭を下げて、涙声になりながら…いろんな意味を込めて、感謝の言葉を叫んだ。
次第に船は見えなくなり、それでも男は…船着場で自分の弟子の巣立ちを見送る。
「……行ってしまったか。…此処に来た時はほんの小さなひな鳥だったのに、いつの間にか立派な若鳥に成長して…」
流れる涙も拭わず、男は誰も居なくなった船着場で…腕を組み、水平線の彼方に消えた船の影を見るようにそこに居た。
「…何処までも高くお飛びよアイク。辛い時は、止まり木で羽根を休めてもいい…苦しくなったらいつでも戻って来ていい。それでも、先を見て高く高く遠くへ…」
「……いっといで、私の可愛い子燕」
巣立ちの日。それはよく晴れた雲ひとつ無い空…。
その空には、まるでこれからの少年を象徴するかのように、一羽の燕が自由に空を飛びまわっていた。