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漸く後編ができたらしいぜ?
待ってる人、なんてそんなに多くないだろうけど待っててくれた人はお待たせだってさ。
今回はちょっと長い上に結構ダークな感じらしいから、苦手なヤツは読まない方がいいかもな?
それでも読んでくれるってんならMoreから頼むよ。
まだ終わりじゃなくてもうちょっとだけ続く、らしいぜ。
オレに似て無計画な背後さんだぜ…。
少年が男のもとに流れ着いて、5年の月日が流れた。
小さい幼子だった少年は、背丈も伸びてほんの少しだけ逞しくなった。
しかし、男との関係は相も変わらず木刀でドツキ合いを交わす師と弟子。父と子。
閑散とした長閑な村に、今日も木を打ち合わせる軽い音が響きあう。
「ぜぇっ…ぜぇっ……」
木刀を手に握り、切っ先を下げて肩で息をする着物の少年は体も下がり、どこからどう見ても既にへとへとだった。
それでも顔だけは必死に上げて紫電色の瞳で男を見据える。
「惜しいねぇ、惜しい惜しい。だが紙一重、届かないねぇ?」
そんな少年を、長い髪の男が木刀をゆるりと構えたまま静かに…しかしどこか意地悪に笑っている。
それが、男なりの育て方、なのだろう。
「にゃろう!」
ダンッ!少年は地面を強く蹴ると、子供とは思えぬ速さで距離を詰め。身長差を生かして足首を狙った低い一撃を放つ、が。
ガゴッ!!
と音がし、男が低く構えた木刀によってあっさりと受け止められた。
「狙いが一辺倒だねぇ、虚実もなっちゃいない」
バシィッ!!と響いた音と共に、少年はとうとう木刀を取り落として前のめりに倒れこんだ。
男は、軽く弾くようにして少年の…木刀を握った右肩を打ち据えていた。
「あ、ぐ…っ、ちくしょー…」
「いてて、まだ痛むじゃねぇかよ」
「痛くないと修行にならんでしょうよ、嫌なら打たれんくらい強くなりなさいな」
風呂で汗を流した二人は、向かい合って卓を挟み食事をする。
5年前から、お互いの顔を見ながら飯を食うというのがこの家のルールだからだ。
少年は右肩を擦りながら、それでも食欲はあるのか米をかきこむ。
「うぐ…。そうだけどさー…むぐむぐ、美味い」
「けど、じゃあ無いよアイク。やるかやらんか、いつも言っているだろう」
ぴしゃり、と少年の弱音を一蹴する。
言葉ではそう言う物の、男は少年の凄まじい成長振りを内心では評価していた。
刀の握り方も知らなかった子供がいつのまにかいっぱしの剣士のように木刀を振るうようになっていたから。
人に物を教え育てる、というのは初めての事だったがいつしかそんな時間も心地いいと感じ始めた。
「…やる」
「それでいい。明日はちょっと稽古を休みにして町に出ようか、そろそろ新しい着物を買ってやらんとね」
街、と聞いて少年は顔を輝かせる。普段は辺鄙な町外れの敷地内から外に出る機会など無く、久しぶりに自分もついていけると思うと今から胸が高鳴って仕方無い。
背も伸び始め、少し小さくなった着物を見下ろして。ぶんぶんと何度も首を縦に振った。
「いく!オレも行く!絶対だからな!」
「ははは、はいはい。そんなに必死にならんでも連れて行くよ、さ…今日はもう寝んさいな。明日は早いからねぇ」
「わかった!お休み師匠!」
「…現金な子だねぇ…」
言うが早いか、とっとと布団に潜り込む弟子を見て。自分に似たのか、と思わず苦笑いを零した。
町まで出ると人の数もそこそこに増え、活気溢れる店が立ち並ぶ通りが見えてくる。
少年は物珍しそうにあちらこちらへと視線をきょろきょろやり、珍しく大はしゃぎ。
「うわぁ!師匠師匠!人が一杯だぞ!」
少年の起こしていた街道の鬼事件も無くなり、人の通りも戻り出して町には元の活気がすっかり戻っていた。
「これこれ、あんまりうろちょろするんじゃないよ。迷子になるぞ」
目をキラキラさせながら、久しぶりの町に心を躍らせて有り触れた茶屋や飯屋にまで興を抱いている。
男は少年がはぐれないようにしっかりと襟首を掴み、半ば引きずるようにして目的の商店へと向かう。
「おおおぉ!ありがとう師匠!」
商店で、新しい着物を買ってもらいその中の一着…綿製の安物だが紺色の着物を着て大はしゃぎしている。
「着物くらいで大喜びかい、安い子だねぇ…本当に。さ、あとこれを」
男が大喜びしている少年に手渡したのは、短めの打刀だった。
「…え、これ…。刀…?」
「そうだ、アイクだけの刀だ。…もうおまえも立派な剣士だからねぇ、しっかりとそいつの重みを身に刻むといい」
そ、と少年は両手で刀を受け取りながら目をぱちくりとさせて。そして、一度ぺこ、と男に頭を下げ。
「ありがとうございます、師匠!」
先ほどの大喜びとは一転、剣士として認められた事を己の中に刻んで粛々と頭を下げた。
まだ子供だが、それでも剣士としての心構えは確り出来ている…と男は静かに微笑む。
「さ、私はちょいと用事があるからね。町で遊んでおいで、こいつは小遣いだ。無駄遣いするんじゃないよ」
「わっ!わかった、へへっ。じゃあゆっくり遊んでるから!」
小遣いの入った財布を受け取ると嬉しそうな笑顔を浮かべて刀袋に納めた刀を担ぎ、はしゃいだように町へと駆け出した。
少年は町に出ると、まず茶屋でダンゴを食べた。
甘い物はあまり食べさせてもらえない、というか家に置いていないので町に出て来る時の楽しみでもあった。
「美味い!ばあちゃん、此処のダンゴ本当に美味いよ!」
「へぇへぇ…そりゃどうも、ぼっちゃん本当久しぶりだねぇ…」
「うん、あんまり町には来れないから。ずっと師匠のとこで修行してんだ!」
美味しそうに茶団子を頬張りながら、少年は人懐こく笑顔で頷く。
「なにぃ!?俺らに飲ませる酒はねぇってのか!」
ふと、向かい側の店から食器が派手に割れる音と柄の悪そうな男の声が響いた。
それに続くように、戸板を派手にぶち破って前掛けをした店主らしき初老の男が通りへと転がり出された。
「お、お客さん、やめてくだせぇ…お客さんたちは、その、ツケが随分たまってやすから…」
「そ、そうです…!もうやめてください、お侍様…!」
地面へと投げ飛ばされる初老の男に駆け寄るのは娘だろうか、若い年頃の少女も一緒になって頭を下げる。
「んだとぉ…!俺たちは侍だぜぇ?商人風情が意見してんじゃねぇぞ!」
大柄な男が後から続き、仕込み杖を手に大声をあげ罵声を浴びせている。侍、と言う割りには服装は質素な着流しでただの食い詰め浪人と言った所か。
その男の取り巻きらしき二人も貧相な服装で、にやにやと下卑た笑みを浮かべ店主を見下ろしていた。
「アニキィ、こんなヤツに払ってやる金はねぇっすよ。ちっくと痛めつけてわからせてやりやしょうぜ」
「そうだなぁ…。その体で、侍様に逆らうとどうなるか教えてやろ…っごぁ!!」
ニタリ、と部下に煽られて仕込み杖に片手をかけた時だった。男は突然苦痛の声を漏らし、前のめりに倒れ伏せた。
「侍を名乗るなら、もっとマシな着物着ろよチンピラ」
大柄な体が前に倒れると、その影に隠れていた姿が浪人たちから見て露になる。
そこに立つのは少年。
先ほどまで食っていたダンゴの竹串を片手に持ち、小さな体で堂々と仁王立ちして浪人を睨みつけていた。
大柄な男は、急所に竹串を突き刺されて地面に寝転がりもんどりうつ。
「何ぃ…!?クソガキが、てめぇよくもアニキを!」
浪人の一人が拳を大きく振りかぶり、殴りかかろうとした瞬間。少年の姿が視界から消えた…と思った瞬間。
ドゴォッ!!
鈍い音と共に鳩尾に、下から突き上げるような一撃を叩き込まれ派手に後ろにひっくり返る。少年の鞘に納めたままの刀による一撃だった。
「ゴホァッ、ゲ、ゲェ…」
「金が払えないなら、飯なんか食うなバーカ」
少年は気負った様子も怒った様子も無く、無様に倒れる二人の浪人をバカにしたように見下ろすだけ。
「こ、この野郎…!」
残りの一人は口では息巻いて見せるが、男二人を一発ずつで仕留めた少年に明らかに怯えた様子で逃げ腰になっていた。
しかし、それもすぐに余裕の表情に変わる。
「へ、へへ…ちょっとは使えるようじゃねぇかガキがよ…!けどまだまだ甘ぇな!」
何事かと少年が振り返ると、大柄な男がいつの間にか起き上がり飯屋の娘の首筋に仕込み杖の刃を突きつけていた。
「…あっ」
「た、助け、て…」
すっかり怯えた様子で浪人の中のリーダー格の腕に捕われた少女は搾り出すように呟く。
「ほら、とっとと武器を捨てねぇか」
「…くっ、わ、わかったよ…。その代わり、その人は、助けてやれよ…!」
刀袋に納めたままの刀を握り締めながら、少年は自分の油断と甘さに苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて告げた。
「ハン、命令できる立場かよ?と、言いたいところだが…小僧が俺たちの気が済むまで大人しくしとくっつーなら、考えてやるぜ」
その言葉を聞けば、少年は迷う必要など無かった。刀を傍らに投げ捨て、抵抗の意思が無いと示すように立ち尽くす。
「よし、野郎ども。そのガキに大人の怖さを教えてやれ!!」
「へい!」
それから、大人たちによる少年への暴力の嵐が始まった。
周りの町人たちも、男たちの荒くれぶりと少女が人質に取られている事で何も出来ないでいた。
少年は殴りつけられ、蹴りつけられながらも悲鳴一つ上げずに耐えていた。
口から血を吐き出しながら、少年は自分の父親の事を思い出していた。
ああ、自分も随分強くなっていたんだな…と。
昔は叫び、ひたすらに怖くて怯えていただけ…しかし今は違った。
確かに痛いが、怖くはなかった。自分よりも弱い情けなくて汚い大人たちによる暴力に必死に耐え抜き、それでも目だけは力を失ってはいない。
「よぉしよし、もうそんくらいでいいだろう」
数分に渡る私刑により、少年は地面に倒れこむ。
か弱い呼吸を繰り返しながら浪人の一人に顔を踏みつけられ。紫電色の瞳だけを大柄なリーダー格の男を向けていた。
「さぁて、そんじゃこのお嬢ちゃんをちょっくら可愛がってやるとすっか!」
「そ、そんな…!」
大柄な男は片手で少女の顎を挙げさせ、にたりといやらしい笑みを浮かべた。
「ま、待て、よ…オレ、が…おとなし、く、して、たら…その人は、助け、る、約束、だ…」
「知らねぇなぁ?そんな約束、オラ、いくぞてめぇら!」
男は少年を嘲笑いながら、少女を肩に担ぎ歩き出す。
「や、やだ!助けて!離して!」
必死に助けを求める少女を見ながら、誰も助けようとなどしない。
この少年の二の舞になる事を恐れ、力を持たぬ町人たちに出来る事はただ視線を外す事だけだった。
「…っ!!」
シャンッ…
その時、一瞬静かな音が鳴った。
「…え?」
ドサリ…。浪人の取り巻きの一人が声も発さずに前のめりに倒れた。
「おい、何してんだよ。とっとと行くんだ……」
躓き転んだのだと思ったのか、リーダー格の男は後ろを振り返ると…そこには血だまりに沈む取り巻きだった男の亡骸が転がっていた。
そして、その後ろには…銀に輝く抜き身の刀を握った、ボロボロの少年が立っていた。
「ひ、ひいいいぃ!コイツ斬りやがった!」
怯えたような悲鳴が上がった瞬間、銀の閃きが二つ視界に入る。その刹那、男たちは立っていられなくなり地面へと無様に転がる。
「きゃあっ!」
肩に担がれていた少女も、一緒になって地面に転げ落ちる。地にはゆっくりと、男たちの斬られた足から流れ落ちる赤い液体が広がっていた。
「ひゃあああ!ま、待ってくれ!待ってくれよ!俺達が悪かったから!」
「……………」
少年は、無言で…能面のような表情のまま。少女を軽く手で横にどかして二人の前に歩み出でる。
「あ、あの…」
「向こうに、行ってて」
声をかけようとした少女は、まだ小さな少年のその言葉で続く言葉を飲み込んで店主の下へと向かった。
「…た、頼むよ…殺さないで…!」
そこには、もう先ほどの強気な浪人は無い…怯えたケダモノが二匹。
少なくとも、少年の眼にはそう映った。何の感慨も無く、何の脈絡も無く、躊躇いも無く。
少年は二人の首を…一瞬で斬り飛ばした。
「アイク…!」
騒動の後、少年は浴びた返り血を飯屋の店主たちに洗われ、着物も変えてもらい。師匠を待っていた。
用事を済ませ、アイクを探していた男は一部始終を町人たちに聞いて一目散にアイクの元へと駆け戻って来た。
「師匠……」
自分へと駆け寄って来る男を見上げ、少年は瞳に少し怯えの色を滲ませていた。
剣士として認めてもらった矢先、自分は人を斬った。
剣士失格だと罵られるだろうか、それともバカ野郎と殴りつけられるだろうか。
男たちにあれだけ殴りつけられ、悪意を叩き付けられても何も怖くなかったのに。
師匠に悪意をぶつけられると思うと怖くて仕方なかった。
男は、少年を見つめると。…思い切り少年を抱きしめた。
「良かった…!無事だったか…!本当によかった!」
「……え?」
少年は、驚きに目を見開いた。
良かった…?何が良かったのだろう。
自分は、師匠に教えてもらった剣を人殺しの術に使った。自分は師匠の剣を穢したのだ。
それなのに、何故この男は自分を抱きしめてくれるのだろう。
何故、この男は……。
「お前が生きてて、本当に良かった…。こんなにボロボロになっちまって…すまなかったねぇ、戻って来るのが遅くなっちまって」
生きてて、良かった…。自分が生きてて、良かった…?
こんな、恩知らずな自分が…。生きてて、良かった…?
「オレ、また…人を、殺した、よ。師匠の剣で、殺した…」
「バカを言いよ、話しは聞いたよ。…お前は、人を守るために剣を振るったんだろう。私は、お前が生きててくれた…それだけでいいんだよ」
自分が、生きてて良かった。
自分が生きてる事を、こんなに喜んでくれた人が…今までいただろうか。
少年は、自分の中から湧き上がる感情が何なのかもわからず。男にしがみついて、思い切りその感情を爆発させた。
「う、うわああああああああんっ!ごめんなさい、ごめんなさい師匠…!」
「いいんだ、いいんだよ……。」
少年は、思い切り声を上げて泣いた。
一杯の大粒の涙を流して泣いて、泣いて、泣いて…。
10年分の、今まで泣くことすら知らなかった人生を取り戻すかのように…ずっと溜め込んだいた感情を思い切りぶちまけた。
男は、少年を背中におんぶして。のんびりと歩いていた。
「…ごめんなさい、師匠」
大きな背中に背負われ、その背にしがみ付いて少年は小さく呟いた。
「…何を謝る事があるんだい、アイク」
「…師匠の剣を、汚した」
小さく小さく、消え入りそうな声で、少年は呟く。
そんな言葉に、男はゆっくりと笑った。
「アイク。綺麗な剣なんて物は、最初から無いんだよ」
「……え?」
唐突に、男が口にした言葉に少年は顔を上げた。
「剣は血に濡れ、刃は生を裂く…これは当然の事だ。汚すも何も、剣は汚れる物…お前が穢したわけじゃあないんだよ」
「でも…」
俯き、困ったような顔をした少年を男は背負いなおし。静かに言葉を告げる。
「本当はね、剣なんて物無い方がいいんだよ。剣は人殺しの道具、剣術は人殺しの術…そして人殺しは、悪い事だ」
「……」
「けれどね、この世は汚くて酷い事で溢れてる。綺麗なままじゃあ、襲い来る暴力から…何一つ守れやしない。少なくとも、私はそうだ」
「そんなに強い、師匠でも…?」
首を傾げる少年の言葉に、男はゆっくりと首を横に振った。
「アイク、私ぁ強くなんて無いんだよ。本当に強いってのはね、戦わなくても守る事が出来る人を言うんだ…」
「戦わなくて、も?」
「そうだ…けれど、今私たちが生きる世界じゃあそいつは難しい事だ」
男の声は、静かだがどこか寂しそうで…何かを憂うような物で。少年は、何となく大人しく言葉を聞いていなくてはならない、と思った。
「生きていく上じゃ、どうしても自分や自分の周りには必ず悪意を持ったもんが降りかかり奪おうと襲って来る…そいつを振り払い、守るためには。綺麗なままじゃいられやしない、武器を握るなら尚更ねぇ」
「…うん」
「それでも、自分が手を汚すことで、助かる命だってあるんだ。人の命の重さは、皆一緒さ…けれども私たちぁ神様でも仏様でもありゃしないんだ。たとえ間違ってたとしても、自分で道を選んで残ったもんを捨てなきゃいけないときがあるんだよ。あのお嬢ちゃんだって、お礼を言ってたろう」
自分が師匠に背負われ、町から出る傍ら…あの飯屋の店主と少女は何度も自分に頭を下げていた事を無言のままに思い出す。
「……」
「難しいかい?」
男は足を止めて、押し黙る少年を顔だけで振り返った。
「…ちょっとだけ」
「アイクはアイクの道を見つけりゃあいい。自分で手を汚すも汚さんも。守るも守らんも、アイクの決める事だよ。これから、生きていく上で自分で見つけなけりゃならん事だ。その上で、自分で答えを出した時…剣が必要ないと思ったら、手放すといいよ」
「…オレが、自分で…?」
「そうだ。自分で見つけた道だからこそ、歩く意味があるってもんだ。ただ、一つだけ覚えておいで」
「…なに?」
男はまた正面を向き、歩きだしながら…そっと聞かせるように呟く。
「私のように、剣を握り敵を殺し味方を守る生き方をするんだったら。手を汚し、手にかける事を『仕方無い』だなんて片付けちゃあいかん。罪を真正面から受け止めて、痛みや苦しみも飲み込んで…向き合って生きていくんだよ。それが、剣を握る物として最低限やらなくちゃならん事だ」
「…今日の、事も?」
少年の不安そうな声に、男は深く頷いた。
「そうだ。確かにヤツらは、汚いチンピラだった。それでも、命は命…おまえはそいつを剣で奪った。その事実を受け止めて、生きていかなきゃならん。そいつが出来ないなら、剣を置きなさい。武器を持つ人間は、決して罪から逃げたり、目を背けたりしちゃあいかん」
「……罪から、目を逸らさないで…生きる」
男の口にした言葉は、少年には難しかったが…それでも、その重さとそこにある意味は、何となく肌で感じていた。
「あぁ…そいつが出来たら。お前さんは立派な剣士だよ…誰に何と言われても、お前は私の自慢の弟子だ」
男が、静かに笑って告げた言葉に少年は一度だけ頷き。背中に顔を押し当ててひっそりと泣いた。
まだ10歳の少年には重過ぎる事だったのかもしれない、それでも少年は…自ら受け止める道を選ぼうと…自分の罪ごと背負ってくれる大きな背中の上で自分もそうなる、と静かに誓った。